40代で独身派遣社員の俺。親戚の紹介でバツイチ50代女性とお見合い。女性「私のこと覚えてる?」俺「え?」

スカッと物語

「ねえねえ悠斗くん、あなたにいい人とのお話があるんだけど会ってみない?」

今まで女性に縁のない冴えない中年になってきた俺に、親戚の叔母から突然見合い話を持ちかけられた。

正直こんな俺なんかがお見合いしたところでうまくいくわけがない。

相手にとっても迷惑になるだけだろう。

それなら最初から会わない方がお互いのためだ。

「俺は結婚する気なんてないですよ。」

普段から押しの強い叔母さんに、今回ははっきりと断りの返事をした。

「結婚する気がなくてもいいから!一回だけ会ってみなさい!」

結局、俺は叔母さんの押しに負けて渋々お見合いをすることとなってしまった。

だが、まさかこのお見合いが俺の人生を大きく変えてしまうだなんて、この時は思ってもみなかったのだ。

俺の名前は柴田優斗。

今年でもう46歳になる冴えないおっさんだ。

小学生の頃、突然大きな病気にかかってしまった。

希少疾患で、一時期は本当に死んでしまうのではないかとかなり危なかったこともあったが、治療のかいもあって、運よく生き残ることができた。

もちろん、学校や友達との思い出なんてなく、小・中学生の頃のほとんどの記憶は病院へ入退院を繰り返すものだった。

寂しい子供時代を過ごしていた。

退院後も友達を作ることはできず、ベッドの中で過ごしてることの方が多かった。

俺の体は病気の後遺症で体力もなくなって疲れやすい体になってしまっていた。

それでも高校には何とか入学できた。いわゆる底辺と言われる高校でギリギリだったが…。

これから学校に行って、

いろんなことを学んで友達もたくさん作れるんだ。

高校生活を思うと期待で胸がいっぱいだった。

しかし、やっと入れた学校も体調の関係で休みがちになった。

週に半分行けたら良い方だ。

学校に行けたとしても体力がないから

途中で具合が悪くなってしまい早退することも多かった。

授業はほとんど受けられていない。

俺はそのうち勉強もついていけなくなり、

出席日数も足りずせっかく入れた高校も中退する事になる。

結局、あれだけ楽しみにしていた高校生活は何もできず終わってしまった。

憧れていた勉強も、友人達との楽しい時間も、何一つ実現できなかった俺は

無力感に襲われてしばらくは部屋から出ることもせず落ち込んでいた。

だからといっていつまでも何もしないわけにはいかない。

このままじゃダメだ、

社会に出たら自分にもできることが見つかるかもしれない

そう思い働き口を探す事にした。

とは言っても高校中退で雇ってくれる会社は限られている。

俺はいくつもの会社に電話して就職先を探した。

だけどほとんどの会社は面接すらしてもらえなかった。

何とか面接までいけた会社でも

「高校中退か。資格とかも何もとってないの?会社舐めてる?君なんかを雇う会社なんてあるわけないじゃないか。」

と、資格も何もない高校中退ではまともに相手にされない。

されないどころか馬鹿にされることも多かった。

俺だって好きで退学したわけじゃない!

そう思いながら悔しさに拳を強く握った。

かといって学力が関係ない仕事では体力が必要になる。

そういう所では俺の青白くガリガリの姿を見ただけで追い返されてしまった。

勉強もできない、体力もない。

おまけに高校すら卒業できなかった俺にまともな就職先など見つかるはずがない。

何度も何度も断られているうちに俺の心は完全にへし折られてしまった。

いつの間にか俺はいろいろなことを諦めて

なんとか日々の生活を過ごすだけになってしまった。

今では派遣会社の社員として派遣先の会社で働いてはいるものの、

給料が良いわけでもなく将来性があるわけでもない。

今の派遣先企業は働き出してもう8年になる。

同年代の奴らはほとんどが家庭を持ってそれなりに責任のある仕事をまかされている年齢だ。

だが、俺は所詮派遣社員だから昇格することも重要な仕事を任せてもらうこともない。

その上、俺はあまり人付き合いが得意じゃない。

会社の人間とも話が合わず、親しいやつもいなかった。

唯一、親しいとは言い難いが、いつも俺に絡んでくるのが上司の野上さんだった。

昼休みにゆっくり飯を食っているとでかい声で

「柴田さんいつも一人で寂しい飯だね〜。たまにはみんなと仲良くしなきゃダメだよ〜。」

なんて大きなお世話だと思うことを言ってくる。

仕事中も何かにつけて俺を呼び出しダメ出しをしてくるかと思うと

仕事と関係のない話までしてくる。

「柴田さんはなんで結婚しないの?」

と聞かれた時には、本当にこの人にはデリカシーがない!と少しイラッとしてしまった。

そもそも、なんの取り柄もない俺なんかと付き合いたいと思う女性がいるはずもない。

そう考えていたから今までずっと独身のままでいるのだ。

それに、もう辛い思いをするのは嫌だった。

俺は子供の頃、病院で出会った大好きだった女の子のことを思い出していた。

初恋だからなのかもしれないが

「大人になったら結婚するんだ」と本気で思っていたし彼女とも約束をした。

だが、その約束は果たされることはなかった。

彼女は優斗と同じ病気で亡くなってしまったのだ。

同じ病気だった彼女が、ある日突然いなくなってしまう。

そんな恐怖を体験した俺は必要以上に人と関わることを恐れるようになってしまった。

そう思って暮らしていたのだが…

ある日叔母さんが突然お見合いの話を持ちかけてきた。

この叔母さんには頭が上がらない。

俺の母親の歳の離れた妹で小さい頃から体調を崩すたびに

忙しい母親の代わりに面倒をみてくれていた。

俺にとってはお姉さんみたいな人だ。

だが、いくら叔母さんからの申し出とはいえ、

それとこれとは話が違う。

勧められても結婚に関してはどうしても乗り気に慣れない。

「俺は結婚する気はないよ。」としっかり断ったのだが

結局は叔母さんの「一度だけ」という推しに負けてお見合いを受ける事にした。

やはり叔母さんには勝てない。

話を受ける事にしたのは良いのだが、

いざとなると初めてのお見合いに気持ちが落ち着かない。

仕事中もそのことばかりを考えてしまいずっとソワソワしていた。

そんな俺の様子に気づいて上司の野上さんが声をかけてくる。

「おいおい!柴田くん!全然仕事に集中できてないじゃないか。何かあったの?」

この人は、いつもは無神経なくせにこういうところには鋭い。

内心「しまった!」と思い誤魔化そうとしたが、

口下手な俺は「いや…なんでもないです。」と答えるのが精一杯だった。

そんな返答で野上さんが納得するわけがなく、

渋々根掘り葉掘り聞かれることとなってしまった。

「柴田くんのお見合い相手ってどんなひとなの?」

「50代の女性らしいです。」

それを聞くと野上さんはにぃっと笑って

「そうか〜!売れ残り同士ってわけか!仲良くできそうだな〜」

と余計な一言を放つ。

悪気はないのかもしれないが、本当にこの人はデリカシーがないな。

俺の気持ちとは裏腹に野上さんはご機嫌で去っていった。

はぁ…気が重い…

当日は俺の気持ちとは正反対のすっきりとした良い天気だった。

足取りも重く、憂鬱な気持ちでホテルに向かう。

叔母さんも俺のことを考えてこの話を持ってきたんだろうが、40過ぎて派遣社員の自分と結婚したいと思う女性なんているわけがない。

レストランの入り口前で足が止まった。

「やっぱり帰ろうかな…」

俺は立ち止まった。

だが叔母さんの顔が浮かんでくる。

「はぁ…。やっぱり行かないとダメだよな…」

しょうがなく俺は一歩ずつ足を引きずるように歩き出した。

レストランについて自分の名前を告げるとウェイターが案内をしてくれた。

「柴田様ですね。お連れ様がお待ちですのでご案内いたします。」

もうすでに相手が待っている。

俺はさらに緊張して席に案内される間も心臓がバクバクして爆発しそうだった。

案内された席には上品そうな女性の後ろ姿があった。

ウェイターに声をかけられた女性が振り返った瞬間、

俺はおどろきのあまり声が出なくなってしまった。

そこにいる女性に初恋の相手、幸子の面影を強く感じたのだ。

だがおかしい、幸子はもうこの世にいないはずだ。

俺は混乱した。「…似ているだけなのか?」

それにしても目元や口の形、

にっこりと微笑んだ姿まで当時の幸子そのものだ!

幸子とは子供の頃に入院した病院で出会った。

俺は病院の談話室に行っても他の子供たちと仲良くなろうとしなかった。

一人で置いてある漫画なんかを読んで過ごしていたのだ。

そんな時に、声をかけてきたのが

当時高校生だった幸子だ。

「みんな向こうで遊んでるよ。君はいかないの?」

「…いかないよ。

仲良くしてもどうせみんな僕より先に元気になっていなくなっちゃうんだもん。」

「そっか、君も病院の住人か。ずっとここに閉じ込められるのは嫌だよね。」

「お姉さんもそうなの?」

「そう、私もずっと入院してるんだ。」

彼女は自分も同じように病院から出られないんだと、少し寂しそうに微笑んだ。

俺は仲間ができたような気持ちになって少し嬉しかった。

それから幸子とは度々談話室で会って話をするようになった。

幸子とお互いの話をしているうちに

同じ病気で苦しんでいることを知った。

小学校高学年にしては大人びた話し方をする俺と幸子は

意外にも話が合った。

それはきっと同じ病気だったこともあるだろうし、

俺自身、いつまで生きれるかわからないという環境が

いやでも考え方を大人びさせていたのかもしれない。

急な発熱、激しい身体中の痛みや嘔吐。

俺たちは、毎日そんな症状に襲われる怖さを同じように感じていた。

俺の苦しみをわかってくれるのは幸子だけだったし、

幸子の苦しみがわかるのも俺だけだったと思う。

俺たちは苦しみを分け合うように一緒にいることが多くなった。

「今日から学校は夏休みなんだって。テレビで言ってた。みんな海とか行くのかな…。」

外に出ることも遊びに行くこともできず、

病院の中だけで過ごすのは本当に寂しかった。

窓から見える外の世界が眩しく手の届かないもののように感じていた。

気持ちが沈みがちになってしまう俺に幸子は明るく笑ってくれる。

「病気が治ったらどこに行って何がしたい?今から計画を立てちゃおうよ!」

そう言って二人で画用紙いっぱいに「未来日記」というものを書いていった。

「夏だからお祭りもあるね!」

「お祭りってたくさん人がいるんでしょ?迷子になったりしない?」

「そうだね。じゃあ、二人で手を繋いでいけばいいよ。」

「僕、幸子ちゃんが迷子にならないようにちゃんと手を繋いでおくね!」

外に出ることも友達と遊ぶこともできなかったが、二人で思いつく限り楽しいことを考えた。

二人でいれば寂しさや病気の怖さも吹き飛んでいくようだった。

「僕は幸子ちゃんがいてくれればいい。」

本気でそう思っていた。

だが、次の夏が来る頃幸子の容態が悪化していった。

次第に談話室にくる頻度が少なくなり、

秋を迎える前には幸子は病室から出ることができなくなった。

子供の俺でもわかるくらい薬の量が増えていた。

病室に会いにいくと日に日に顔色が悪くなる幸子。

日中でもベッドで横たわっている幸子。

苦しそうな息遣いをする幸子。

その一つ一つに俺は幸子がいなくなるんじゃないかという不安を感じていた。

俺は自分の不安をかき消すために

幸子のそばに行きそっと手を繋いだ。

幸子はゆっくりと目をあけてポツリポツリと話してくれる。

「優斗くんに出会えてよかった…。きっと私一人だったらもう何もかも諦めるしかできなかったよ。ありがとう。」

幸子は窓の外に立つ茜色の紅葉の木をみながら

「でも、もっといろいろしたかったなぁ…。普通の子みたいに誰かを好きになって結婚して、子供を産んで。一緒に幸せになりたかったなぁ。」

俺は耐えられずに言った。

「僕が幸子ちゃんと結婚する!きっとさっちゃんを幸せにするよ!だから元気になって!」

幸子は力なく微笑んで答えてくれた。

「優斗くんが結婚してくれるの?約束だからね!」

俺もすぐに返事をする

「うん!約束だ!」

そう伝えると幸子は疲れてしまったのか

眠りについてしまった。

幸子の寝顔をみながら

俺は目の奥が熱くなるのを感じた。

幸子への心配や不安をどうすることもできず

その日はなかなか寝付けなかった。

翌日、まるで何かを予感していたかのように幸子の容態は急変した。

幸子はすぐに救急治療室に移された。

手の届かないガラスの向こう側に行ってしまったのだ。

それでも俺は画用紙いっぱいに「大人になったら僕と結婚しようね!だから絶対元気になって!」と書いて幸子の方へ見せる。

幸子は少しだけこちらに顔を向けて微笑みながらコクンと頷いてくれた。

しかし、幸子に会えたのはそれが最後だった。

翌日、幸子の姿は病院のどこにもなく、周りの大人たちからは「さっちゃんは遠いところにお引越ししたんだ」と聞かされた。

子供でもそれが何を意味するのかがわかってしまった。

悲しくて悲しくてしばらくは病室で泣き続けていた。

あの時お別れをしたつもりになっていたのに、

その幸子が今俺の目の前にいる。

信じられないようなことが起こって俺は思わず固まってしまった。

目の前の女性はあの時の幸子と同じ微笑みでゆっくりとこちらに近づいてきた。

「私のこと覚えてる?」

間違いなく幸子だ。

俺は驚き過ぎて少し間の抜けた顔のまま

「どうして?」というのがやっとだった。

ふふっと笑う幸子に席をすすめられてあの時の話を聞いた。

「あの時は急にいなくなってごめんね。

実はね、病気で入院が決まってから海外の病院で治療する準備をしてたのよ。

当時アメリカの方が有効な薬が使えたからね。

でも、離れ離れになっちゃうから優斗くんにはなかなか話せなかった。

そうしているうちに、容態が悪化してしまって。

アメリカに行くには体力的にも、あの時が最後のタイミングになっちゃった。」

俺はまだ夢でもみているかのような気持ちだったが幸子はゆっくりと話し続けた。

「それで、アメリカに行って新しい薬を試したら、運よく治療がうまくいって回復することができたの。

でもね、完治した後も社会復帰のためにリハビリや勉強に何年もかかっちゃって…。

結局、普通に就職するのは難しかったんだけど、アメリカで経営していた父の会社に入って日本にも帰ってこられないくらい必死で仕事してたんだ。

そしたらこんな歳になっちゃった。」

あの頃の面影を残した少しあどけない表情でこちらを見つめる幸子。

「優斗くん。少し時間がかかり過ぎちゃったけど、元気になったよ。結婚してくれるんでしょ?」

いたずらっ子みたいに笑う幸子の手をギュッと握りしめ、俺は泣きながら「うん」とだけ返事をした。

そこから俺たちはお互いのことをたくさん話した。

改めてお互いの気持ちを確かめ合い交際をスタートさせた。

二人とも病気を克服した今、

慌てることもなくゆっくりと二人の時間を重ねている。

幸子は今、昔の自分のように病気で苦しんでいる子供たちをサポートする支援団体を立ち上げて頑張っていた。

「私が苦しんでいる時は優斗くんがそばにいてくれたよね。

私、優斗くんにすごく助けられたの。でもね、みんなそういう人が側にいるとは限らないでしょ?だから少しでもその子たちの助けになりたいと思ったの。」

「そうだね。俺も幸子がいてくれた時は本当に救われたもんな。」

「優斗くん、良ければなんだけど…」

俺は幸子に支援団体の活動に協力してほしいとお願いされた。

闘病の辛さ、その後の社会復帰の難しさ、それをわかっている自分には天職なのかもしれないと感じた。

俺は幸子のサポートをするために支援団体で働く事に決めた。

8年以上勤めた派遣会社を辞める時は本当に大変だった。

野上さんは俺の結婚と転職の話を聞くと

「やっといなくなるのか!本当によかったな!ちゃんと幸せになって二度と戻ってくるなよ!」

と大泣きしながら送り出してくれたのだ。

最後までデリカシーはなかったが、

なんだかんだといつも俺のことを気にかけてくれて、

野上さんなりに応援してくれていたみたいだ。

「野上さん、今までお世話になりました。やっと幸せになれそうです!」

最高の笑顔で野上さんに感謝の言葉を返した。

それを聞いて、野上さんはまた号泣。

野上さんを落ち着かせるのが本当に大変だった。

俺は今、幸子と二人で毎日が充実した生活を送っている。

人生って本当に不思議なもんだ。

「優斗くん、そういえばあの頃書いた未来日記覚えてる?」

「そういえば、いつの間にか無くしちゃったな。どこにいったんだろう」

「あれね、実は私が今でも大事に持ってるんだ。」

「本当?」

もう何十年も前に無くなって見つからないと諦めていた幸子との思い出だった。

「アメリカに行く時に私の荷物の中に入ったままだったんだ。だからさ、これからは二人で日記に書いた思い出を叶えていかない?」

幸子からの思いもよらない嬉しい提案だった。

あの頃叶えられなかった夢がこれから二人で叶えられるんだ!

嬉し過ぎて胸が熱くなってくる。

思い返すと、一番楽しいはずの子供時代は本当に苦しかった。

同じ年くらいの子たちが楽しそうに明るい太陽の下で元気に走り回っているのに、自分は薄暗い病室のベッドの上で、自由に遊ぶこともできず、飲みたくもない薬、いつ襲ってくるか分からない痛みや気持ち悪さという不安と戦っていた。

同じ病気の幸子がいなくなった時も悲しみと、

「次は自分かもしれない」という恐怖に怯えてすごす毎日。

何で自分だけがこんな目に遭うんだと苛立ったこともあった。

治療が落ち着いてからも学校にも満足に行けず、

思い描いていた青春は泡のように消えて虚しくなり

社会に出てからもまともに就職もできず悔しい思いをした。

自分が何のために存在しているのか分からず、

俺は長い間幸せになることを諦めていた。

だが、今の俺の隣には幸子がいてくれる。

神様がいるのかはわからないが、

もしかしたら俺が病気になったのは幸子と出会うためだったのかもしれない。

俺は病気のせいで大切なものを失ってきた。

だからこそ、大切な人が隣で笑っていてくれるという当たり前なことが、こんなにも尊くて幸せなことなんだと気がついた。

これからはこの当たり前の幸せを大切に守っていこうと思う。

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