DQN客が高級寿司屋に来店し支払い拒否「文句言うなら◯◯組の組長呼ぶぞ?」→常連の爺さん「ん?俺が組長だけど、お前誰?w」

スカッと物語

「会計だって?こんなにまずい寿司食わせといて、金払えってぇのか?」

 店内に響く傲慢な声。

「俺は渡辺組のヤクザだぞ?文句あるなら組長を呼んでやるよw」

 ニヤニヤと下品な顔で俺と洋子を見下してくる。

 急ぎ警察を呼ばなければ、俺が洋子を、お客様を守らなければ。

 そう思った時だった-ーーー

 俺の名前は川田大地、今年で42歳になる。

 自分のお店を立ち上げて6年目。お店の立ち上げと同時期に結婚した妻の洋子と一緒に、高級寿司屋の店主をしている。

 寿司屋の店主を務めるにまで至った一番最初のきっかけは

両親の代わりに作った夕飯だった。

 そもそも、俺の実家は裕福ではなかった。

 両親も共働きで、平日の帰りは殆ど遅かった。幼い妹と弟もいた。自分ができること、喜ばれることを探した結果、行き着いたのが料理だった。

 初めて作ったのは、ベタだがオムライスだった。具のないケチャップライスに卵を載せただけのシンプルで拙いなものだったが、俺のオムライスを食べながら母が涙していたのを覚えている。

 食事とは人を幸せにすることができるのだ!

 俺でも、もっといろんな人に、食を通して、幸せを届けられるかもしれない!

 俺にとっては大発見だった。

 得意でない勉強でも、料理やその先にいる笑顔になる人を思い浮かべると、頑張ることができた。

 高校の卒業の時、親父がお祝いにある寿司屋に連れて行ってくれた。

みんなで寿司屋に行くには、全員分の食事代がまだまだ出せなかった。

 金欠なのにわざわざ行かなくてもいいと断る俺を連れて親父は言った。

兄弟それぞれの進路が決まれば一人ずつ連れて行ってやる。

まずはお前からだ。

 寿司屋に入った途端、上品で、気遣いの行き届いた接客に感動した。

そこのお店は義理人情にあつい店主が、ひと組ごと席に必ず挨拶に回っている。

例に漏れず、俺と親父の席にも深く頭を下げに来てくれた。

「お前をここに連れてくることが、父さんの夢の一つだったんだ」

 と気まずそうに頭をかく親父に、鼻の奥がじんとした。

 店主も穏やかで優しい、そんな目で俺たちを見つめていた。

「素敵な想いにこのお店を選んでいただき、心より感謝いたします。何がお気づきのことや、ご希望などございましたら何なりとお申し付けください」

 低く落ち着いた声でそういうと「ごゆっくり」と俺たちの席を後にした。

 そんな店主を見て、お客様の想いに寄り添うことができるのが料理屋なんだと思った。

 程なくして、俺はその寿司屋に弟子入りを志願し、店主が師匠となった。

 相手への思いを形にし、寄り添い、大事にできる師匠の店作りを、学びたかった。

 寿司屋へ弟子入りが決まった時に、高卒でまだ右も左も分からない若輩者の俺だからこそ、誰にも見られていないところでも努力できる自分でいようと決意した。

 その日から毎朝誰よりも早く出勤し、

毎晩、店の包丁を全て研いで帰ることを日課に決めた。

 師匠からの指導は厳しかった。

初めは皿洗いと店の掃除から始まったのだが、

包丁持たせてくれないどころか厨房にも入れてもらえなかった。

 数ヶ月後にやっと包丁を握らせてもらったと思えば、

食材の切り方一つで包丁の扱いがなっていないと厨房から出されたこともあった。

 時には辞めたいと思うこともあったが、

そんな時は両親や兄弟が自分の料理を楽しそうに食べている姿を想像しなんとか堪えた。

 数年がたち、厨房での仕事にも慣れた頃、寿司屋のアルバイトとして入ってきたのが洋子だった。

 いつも一生懸命で、気遣いができる優しい性格に惹かれていった。

俺は緊張でガチガチだったが、なんとか思いを伝え交際をスタート

 それから交際中でも仕事人間だった俺を

洋子は「本当に料理が好きね」と笑って許してくれた。

 師匠から暖簾分けの許可をもらったとき、洋子にプロポーズをした。一緒についてきてくれると言ってくれたとき、一生涯かけて幸せにすると誓った。

 それから俺は地元に戻って店を出すことにした。

駅前近くに良い物件が見つかり、そこで開業。

最初は客足も安定せず、洋子には随分苦労させてしまった。

 しかし、自分ができる最大限のおもてなしを心がけてお店を運営するうちに

少しずつ、お客様が足を運んでくれるようになった。

 洋子の持ち前の、気前のよさと気遣いがさらにリピート客を増やした。俺は人に恵まれている、心からそう感謝した。

 

 今では地域に根付いた、高級寿司屋として、日々暖簾を下げて営業している。

「大将!今日もよろしく!」

 そう言って常連のお爺さんが暖簾をかけて間も無く、門をくぐってくれた。

お爺さんの特等席はカウンターの一番奥の席だった。

 俺は師匠の教えを大切に、お客様には必ず一言挨拶するようにしている。

「いつもありがとうございます」

 俺は頭を下げにカウンターにでた。

そして短く、今日採れたての旬の食材を紹介し、台所で調理を始めた。

 表では洋子がポツポツと店に入ってくるお客様を案内し、もてなしてくれている。

 お爺さんはこのお店ができた当初から通ってくれている一番古参の常連さんだった。

 まだ店が軌道に乗っていない時には

「店をやるなら筋を通すことが大切なんだ!筋を通していたら案外上手くいくもんだ。逆に筋を違えるとすぐにだめになっちまう。商売なんてそんなもんだ」

とお店をやる上での心構えを教えてくれたり

 「この寄り合いに呼んであげよう。自治会長の佐藤さんは顔が広いから、必ず名前とお店を覚えてもらうんだぞ。」

と人脈の作り方を教えてくれたりした。

このお店が軌道に乗れたのもお爺さんの助けがあったからだ。

 そんなお爺さんは平日の昼間から酒を飲みにくることもあれば、仕事関係なのかスーツを着込んだかなり若い方を連れてきて寿司を食べてくれることもあった。

 そういえば、一度だけ、お爺さんの人脈の広さや自由に時間を使う様子を見て、どんな仕事をしているのかを聞いたことがあった。

「なぁに、ちょっとした事業をしててな…」

 それ以上を教えてくれることはなかったし、聞いてほしくない様子だったので、俺も聞くことはしなかった。

けれど、いつも身なりに気を遣った上品さからどこかの経営者か資本家だろうと思っている。

「こちらが本日の旬のネタです」

 俺はそう言って、お爺さんの前に握ったお寿司を置くと料理の紹介をした。

おじいさんは一通り説明を聞くと、一つお箸でお寿司をつかみ口に運んだ。

おいしそうに頬が綻ぶ。

「うまいなぁ」

 俺はこの一言が、本当に嬉しいのだ。

 そうやって地道に積み上げて、誇れるお店を作り上げてきた。

 

 そんなある日のことだった。

態度の悪い若い男が3人、店に入ってきた。

店内も賑わっており、席に余裕もない。

男たちは店内のお客様を睨みつけた。

穏やかに賑わっていた店内の誰もが眉をひそめ、話す声が小さくなる。

 店内の空気が変わったのを感じ、俺は台所から客席をのぞいた。

「すぐにお席をご用意いたしますので、申し訳ございませんがこちらでお待ちくださいませ」

 洋子のよく通る、控えめな声が聞こえてきた。

 洋子の視線の先に3人組を見つけて、俺は眉間に皺を寄せた。

 ダボダボのスウェットやパーカーなど、お店の雰囲気に似合わない格好をしている。

 ガムを噛んでいるのか、くちゃくちゃと音を立てて、ジャラジャラとアクセサリーをつけているのも、どこか下品に見えた。

 一人が舌打ちをした。

「そこ、あいてるじゃん。」

 そう言って3人組が洋子を押し退けて4人掛けテーブルに座った。

 その後の店の雰囲気は最悪だった。

3人組の男達は、まるで召使いのように洋子を呼びつけた。

また、周りを気にせず騒いだり、お寿司の悪口を大声で言うなど、聞くに絶えない言葉が飛び交った。

 

 少し注意すると倍以上の罵詈雑言が飛んでくる。

これ以上暴れられては困ると思い対策を取れずにいると

一人、また一組と、お客様がお店を後にしていく。

 洋子はお客様が帰るたびに店外で「申し訳ございません。」と謝罪をしている。

お客様は、おかみさんは悪くないからと言ってくれているが、立派な営業妨害だ。

 お客様が減るに連れて、どんどん言動が大きく乱暴になっていく。

 俺は洋子が心配でハラハラしてきた。

「おい!酒がたりねぇ!客の手元くらいきっちり見れねぇのかよ」

「これが今日の採れたてだって? 嘘ついてんじゃねぇの?」

「まずい!遅い!」

 散々騒いだあと、3人はおもむろに席を立った。

洋子がお会計の案内で伝票を渡そうとすると、

先頭の男が洋子にわざとぶつかった。

倒れる洋子を見下ろして、ニヤニヤと笑っている。

 我慢の限界だった。

 俺は台所から急いで出ると、立てずにいる洋子に駆け寄って肩を抱いた。

「おぉっと、見えなかったぜおばちゃん」

 ニヤニヤと気持ちの悪い顔で、3人の中で一番小柄な男が言った。

「ところでさ、この伝票は何?」

「お会計はお席でさせてもらっています、少々お待ちください。」

 俺は男の声に被せるように低く、はっきりとした声で言った。

小柄な男が一瞬怯んだように見えたが、次の瞬間店内にガハハハと下品な笑い声が響いた。

「おい、会計だってよ、林田」

「こんな不味い寿司に”お勘定”なんて払えるかよ、なぁ?」

「全くだぜ。お客様に来ていただいただけで、十分ありがたいんじゃないの?」

 林田と呼ばれた男が、ニヤニヤ顔の口元を手で隠し、俺と洋子の前にしゃがんだ。

「知らねぇようだから教えてやるけどよ、俺達さ、渡辺組なんだよ」

 渡辺組、大地はその言葉を飲み込んで喉の奥が詰まった。

 最近、近所でその名を聞くようになった。

タチが悪く、暴れ回っている組の名前だった。

「警察を呼ぼうとか考えるなよ。そんなことしたら、仲間たちがこの店を潰しにくるからな」

「そんなの嫌だよなぁ?」

 林田の後で二人がクスクスと笑っている。

「しょぼい店だがみかじめ料がわりに今後も食べにきてやるか!文句があるなら組長を呼んでやるよ!」

 怒りに拳を握りしめたが、グッと堪える。

 洋子の安全と店を、何よりお客様を守らなくてはと、頭の中で思考が一瞬のうちにめぐる。

 洋子を台所にやって警察を呼んでもらおうか、最善策は何かと考えていたその時だった。

「弱い犬程よく吠えやがらぁ」

 低い声と一緒にお店の奥から、コンコンコンと、湯呑みで机が叩かれる音がした。

 なんの音だと全員で振り返るとカウンターの奥に座っていたお爺さんがゆっくりと立ち上がった。その動作がやたらとゆっくりで、堂々として見えた。

「私がその渡辺組の組長だが、どこの管轄のもんだ?」

 そこにはあの常連のお爺さんが立っている。

 しかし、その声は今までお爺さんからは聞いたことがない

どすのきいた低く重みのある声だった。

 

「え?」

俺は混乱した。あのお爺さんが渡辺組の、組長?

 お爺さんが言葉を言い終わるやいなや、お店の扉がガラガラっと素早く開かれて、真っ黒なスーツを身に纏ったサングラスの男性が二人、店内に入ってきた。

 サングラスのせいで二人の表情は読めない。

 俺は身動きが取れず、成り行きを見守った。

「若いの、お前さん、名前は?」

 お爺さんの言葉に、大地が3人組に視線を戻すと、顔色が真っ青だ。小柄な男が、口をパクパクと動かしていて、どうやら声が出ないようだ。

「名前はと聞いているんだがな?」

 スーツの男が一人、動いたと思ったが早いか、林田の足を払い、転がった頭を上から手で押さえつけた。目の前で起こった一瞬の出来事に、きゃっと、洋子が悲鳴をあげる

「林田!」

 もう一人の男が焦り名前を呼んだ。その瞬間に、口を押さえて、顔を引きひきつらせた。

「林田か。後の二人は?」

 スーツの男に店の出口を封じられて、逃げ場もなく、二人は震える声で小さく名乗る。

「ふむ、そうか、よくある名前だなぁ」

 渡辺のお爺さんが呟くように名前を繰り返す。

「おい、うちの組にこんな行儀の悪い馬鹿はおったか?私の記憶力が衰えただけか。」

 目を薄めて林田を見下ろしている。吉村と呼ばれた入り口を張っているスーツの男が答える。

「オヤジ、うちの組にそんな名前のモンはおりません。」

 そうか。静かに渡辺のお爺さんが頷いた。

「うちの名前を勝手に使って、どう落とし前つけてくれるんだろうか、ねえ?」

 お爺さんがゆっくりと出口に向かって歩いてくる。3人組の目の前までくると、床に押さえつけられている林田の目の前に足を力強く踏み下ろした。ひぃ、っと足元で声がする。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」

 林田が急に床に伏して謝りだした。

 お爺さんが舌打ちをした。

「ここじゃぁ、ご迷惑だ。表に出ようか」

 そういうと、俺たちの前にしゃがんで視線を合わせると、いつものよく知る穏やかな表情だった。

「大将、女将さん、うちの若いもんがご迷惑をおかけしましたね。お会計をお願いできますか?こいつらの分も一緒に」

 洋子はぎこちない動きで立ち上がると、よろよろと請求書を持ってきた。渡辺のお爺さんに呼ばれた吉村が領収書を受け取る。

「おい、こいつらぁ連れていく。車を出してくれ」

 スーツの男が林田の腕を後ろで縛り、転がしたまま外に出た。

するとスーツ姿の男たちが新たに四人、どっと店内に入ってきた。

3人組の他の二人も、まるで念仏のように何度も何度も謝りだした。その二人も後ろ手に素早く縛られていく。

「うちの組に入りてぇそうだ。話を聞いてやらなくっちゃぁな」

 林田の3人組が順に店内から引っ張り出されていく。

 その後からお爺さんが楽しそうな声音で続いて出ていく。

 残された吉村が請求書を持って洋子に近づいてきた。洋子の体は再び強張って構えた。俺は庇うように洋子の前に立ちはだかった。

「大将さん、女将さん、いつぞやはお世話んなりました。」

 吉村がそう言って下にサングラスをずらすと、見たことのある人懐っこい目がのぞいた。

「あぁ!」

 声にならない声で頷くと、俺はほっとして体の力が抜けた。

 吉村はお爺さんに連れられてよく食べにきてくれていた若い子の一人だった。

 吉村は申し訳なさそうに、にっこりと笑いかけてきた。

「最近迷惑してたんでさぁ。うちの名前を勝手に使ってる暴れん坊がいるってね。ここは、うちにお任せください」

 そう言って支払いより多い金額を洋子の手のひらに載せた。

「お釣りはいりません。ご迷惑かけました」

 そう言って立ち去ろうとする吉村に洋子の声が追いかけた。

「またいつでも遊びにいらしてね!お釣りはその時に!」

 吉村は振り返って一礼して出て行った。

 騒動のあった日からしばらくたって、お爺さんは何事もなかったかのように遊びに来てくれた。

 あの後、若い3人組がどうなったか、お爺さんは詳しくは教えてくれなかった。

だが、法外な金額を請求され、お金だけでなく家族まで渡辺組に押さえられ、

今後十数年は返済のために朝から晩まで働かされ続けるのだという。

 俺がお礼を伝えると、バツが悪そうにお爺さんは頭をかいた。

「お恥ずかしい姿を見せてしまったね。」

 俺と洋子は二人して首を振った。

「私はね、川田くんのお寿司は本当に美味しいし、 接客も気持ちがいいし、丁寧なお仕事が大好きでね、積み上げた努力を馬鹿にされたのが許せんかったんですよ。少しやりすぎましたかね」

 ヤクザという商売が一体どんな世界なのか、俺には想像ができなかった。

しかし、お爺さんが大切にしている「筋を通す」ということが、

どれほど地道で人に見えないような努力だったとしても信頼を作っていくのだと感じた。

 俺と洋子は自分達の努力がお客さんに伝わっていたことを嬉しく思い、より一層お客様のためにこの寿司屋をやっていこうと心に誓った。

「ところで」

 お爺さんがニヤッと笑って見せた。

「せっかく久しぶりに来たんだ。大将、いつものを頼むよ」

 そう言ってカウンターの一番奥の席に座った。

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